
「引用:https://deskgram.net/explore/tags/低体温のキス」
乃木坂46の2ndアルバム『それぞれの椅子』に収録されている『低体温のキス』。この曲は乃木坂46きっての歌姫で天才と呼び声も高い、生田絵梨花さんのソロ曲です。GLAYが大好きな彼女にとって、このロックな曲は間違いなくハマり曲でしょう。それでは、この曲の世界観の物語を見ていきましょう。
好きって言ってぇ!
コートが恋しくなる11月初旬。この季節には珍しいどしゃ降り雨。時折、雷がゴロゴロとなって光っていた。
私、えりかは看護師の仕事を終えて、南海鉄道の堺駅で、車で迎えに来る光一を待っていた。
光一とは付き合ってもう5年になる。
出会いは看護師の専門学校に通っていたころ、同級生から誘われた合同コンパで出会った。当時大学2年で私より1つ年上の光一。私は逢った瞬間からこの人って思ったんだ。
それから遊園地に行ったりキャンプに行ったり、グループ交際を経て、半年ぐらいたった頃に光一から告白されて付き合う事になった。
最初はラブラブしてたけど、私が先に看護師として就職、彼も翌年に商社に就職した。
休みが合わずなかなか会えない日々が続いていった。そんな中でも連絡は取り合い時間をみつけては会っていた。
それにより2人は夫婦のような感覚もあるが、距離が離れていったような気もしていた。だって、2年ぐらい、光一から好きって言われてないから。
雨はしだいに強くなり、雷も強くなっていた。
そんな時、光一の車が到着したので、走って光一の車に乗り込んだ。
「遅いよぉ! 」
「遅かったかいなぁ」
反省の色がない。といっても10分ぐらい待っただけだが、光一は休みで、私はお仕事を終えて来ている。だから、腹が立つから、もっと攻めてやった。
「遅いわ! こっちは仕事で疲れてるのに、休みやったんやろう? 」
「でも、健とちょっと・・・」
また始まった。言い訳しきれてない言い訳が。どうせただ遊んでいて、楽しいから、私との待ち合わせがあるけど、まーいいっか、みたいな感じだ。
「遊んでたんやろう! 」
「まーそうやけど・・・」
遊んでいて遅刻。こっちは仕事してきているのに、時間通りに来たのに。
「だったら待ってんのはそっちやろう! 」
と、私がどうしてこんなにご立腹なのかを感じて欲しい。というより光一は分かっているはずだ。なのに、
「うるせいなぁ~」
「はぁ! 」
こんな感じで開き直る。確かに、仲がいいと言えば仲がいい。付き合い始めの頃なら、「待ってないよ」って言うところだし、光一もいつも先に来て待っていた。
だから心配になる。だって、私なんてどうでもいい存在なのかもと思うからだ。というより最近はそっちの気持ちの方が強くなってきていた。
車は走り出し、どしゃ降りの中をワイパーを強めに振りながら食事に向かった。
「今日はなぁ、予約しといたんやでぇ 」
これは嬉しかった。付き合い始めの頃は、光一がリサーチして、エスコートしてくれたから。
でも最近は、行き当たりばったりなデートが多かったからだ。だから私はとても上機嫌になった。
「え―そうなのぉ~ 楽しみ・・・どこどこ? 」
と、私はすごいウキウキだった。
これが本当の私だ。あんなに怒る事なんてあんまりないんだ。でも、どうしても光一の心が分からなくてそうなってしまうの。
「行ってからの楽しみやで」
と、ニコっと横目で私を見て言った・
「え― 何系かだけ教えて? 」
私は顎に両手を握って、光一の方を見て話した。
「ヒントは・・・ブクブクブク・・・かなぁ」
と、なんか海に潜るような行動をして話した。
「なんやそれぇ~ 海・・・海鮮系? 」
意味が分からなかったが、自分のあまりよくない頭をフル回転させて考えたら、なんか刺身とかお寿司とかがうかんできた。
「どうかなぁ~」
「超楽しみぃ~」

「引用:https://www.musicman-net.com/artist/54964」
というウキウキな気分は、この大雨と雷という最悪のコンディションとともに、光一は最悪に聞きたくない話をし始めた。
「南山の奴、またやりあがってさぁ~」
この南山とは半年ぐらい前からよく話している、会社の新卒の後輩、南山ひな子ちゃんの事である。
「両面印刷されている資料を、両面コピーしてって言うたら、普通、表と裏に両面印刷してくるやろう。なのにあいつ、表側に表と裏を縮小してコピーしてくるんやでぇ~ありえへんやろう~なぁ~」
私は聞きたくないので、窓の外を見ながら不機嫌になった。
「後、この前の飲み会なんてなぁ、部長にお酌させてるんやでぇ~ どんな大物やねん! って、かんじでさぁ・・・・あれ、おい、聞いているかえりか? えりかぁ~? 」
私はムカついた気持ちを持ちながら、光一の方に振り返り話し出した。
「光一、その子の話聞きたくないって言ったやろう」
優し目に私は話始めた。心の中では殺すぞぉと思っているが。
「そうやっけ・・・」
と、忘れているという一番最悪の返答をしてきたので、私はまたイライラが増幅してきた。
「そうやわぁ! もしかして、その子の好きなのぉ?! 」
前から思っていたことを私は言ってしまった。これで好きって言われたら終わりなのに。
「好き? あり得ないだろう、南山やでぇ~あんな変人のお子ちゃま、ないやろう! 」
最悪の返答はしなかったのでよかったが、なんか私の事より、100%南山ひな子ちゃんの事のほうが気になっているのが腹が立つ。そう思うとまたイライラしてきた。
「そ う・・・でもなんでそんな楽しそうに話してんの! 」
と言うと、光一はいきなりヘラヘラ笑い出して言った。
「おまえなんやぁ、キレてるの? 」
何言ってんだこいつ。そりゃーもうキレかかってるわと思いながらも、なかなか会えない貴重な時間だから、あまりケンカしないようにしようと私は考え、
「え・・・別に・・・そうじゃないけど・・・」
と答えたら、光一は最悪だ。
「そこは、キレてないっす~って小力のマネしろよ! おもろないなぁ~」
なんという返しだ。
「はぁ―! 」
今のは完全にムカついた。なのにこいつ、笑ってやがる。
「ハハハハハハハ」
私は、ここでずっと気になっている事を話し始めた。
「ねぇ! 光一と私って付き合ってるよね・・・」
「え・・・付き合って・・・る・・・やろ・・・」
と、なんか含みのあるような話し方をしていたので、私は少し大きな声になって話を続けた。
「じゃあ私の事、どう思ってん? 」
そう言うと、光一は少したじろいだ。
「どうって・・別に・・・なんやねん、いきなり」
どうしても好きっていう言葉が聞きたいから、私は前のめりになって話した。
「だから、どう思ってんのか聞いてるんやろう! 好きなの?嫌いなの? 」
でも光一はしかめた顔をして、
「おまえなんかおかしくないかぁ~いきなりムキになりだして」
確かに私はムキになっている。どうしても好きと言って欲しいから。その為、ムキになっているという、痛い所をつかれては私はムカっとして、
「ムキになってないわぁ! 」
と、強めに言い放った。
「ムキになってるやろ! いきなり不機嫌になりだして」
なぜか私以上に光一の方が不機嫌になった。悪いのは光一なのに。だから、私は思ってる事をまくしたてたら言い合いになった。
「光一が悪いやろぉ! 最近かまってくれへんしぃ~、てか最近違うわぁ! 2年ぐらいずっとやぁ! 」
「かまってくれんって、意味が分からんわぁ! 」
「光一は最近変わったわぁ! 昔はそうじゃなかった。私を1番に考えてくれてたし、もっともっと・・・・・」
「もっと・・・なんや? 」
「分からんのかぁ! 」
そう言った所で、車は赤信号で停まった。
「分からんのはお前の方やぁ! いきなり不機嫌になったり、キレだしたりぃー 俺を怒らせたいんかぁ! 」
光一が大きな声で叫んだ後、車は一瞬の静寂に包まれた。
「うううううううう、もういい! 」
私は思わず扉を開けて、どしゃ降りの中、傘もなしで飛び出した。
「おい! えりかぁ!・・・めんどくせぇ奴やでぇ」
光一は車を道路わきに停めて、傘を2本持って追いかけて来た。
どしゃ降りの中の南海鉄道の線路沿いを走って、後ろからは光一が追いかけて来ていた。
その時、電車が私たちを追い越すように走って行った。
「おい! えりか! 待てよ! 」
私は走るも、ピアノとかしかやってきてないので、野球をやっていた光一に足の速さでは勝てず、追いつかれ手を引っ張られた。
「おい待てよ! 」
「離して! 」
私は、すぐに手を振り払った。
「いきなり飛び出して意味が分からへんやろう! こんなどしゃ降りの中、風邪ひくやろうがぁ! 」
そう言って、光一は傘をさしてくれた。
ビリビリガシャーン
「キャー! 」
大きな雷が鳴り、私は怖くて光一に抱きついた。
「大丈夫かぁ。危ないから車に戻ろう」
しかし私はすぐさま、光一から離れて強がって怒りをぶつけた。
「いややぁ! 」
と言うと、光一は困った顔をして、
「いややってなんやねん。 おまえ意味が分からへんでぇ」
ずぶ濡れになりながら、私は思いの丈を言い放った。
「なんで分からへんねん! 私は苦しんやぁ! 光一の気持ちが離れていくようで・・・」
「離れていくって・・・そりゃあ、休みも合わへんで、すれ違うこともあるやろう。でも、仕方がないやろう。俺たちはそういう生活を選んだんだから 」
冷静に考えれば光一の言う通りだ。でもでもでも、寂しいし光一が今どう思ってるかも、何を考えているかも分からないのだ。
「でも・・・でも・・・・分からへんくなったもん! 」
「何が分からんのやぁ? 」
「光一は私の事、どう思ってんの? ねえ! 教えて! 私の事好きなの? ねえ! 好きって言って! 」
私は今まで溜めていた、ありったけの気持ちを言った。ワガママかもしれない。でもそれが本当の気持ちなんだもん。

「引用:http://nogizaka46link.blog.jp/archives/13799737.html」
「分かった。言うよ! 言うでぇ! 俺はえりかの事がす・・・・・・・・」
ガア―――――
そこに電車が通り過ぎて、光一の声が聞こえなくなった。
「え―? 聞こえない! 」
光一は何かを言っているが、電車の音にかき消されて全く聞こえない。電車のバカ野郎!
そしてやっと電車が通り過ぎた。
「・・・・んだ! 」
「え・・・なんて言ったの? 聞こえへん! 」
電車のせいで、全然大切な部分が聞こえなかった。だからと言って、南海鉄道が悪い訳ではないが。
「なんやねん! 聞こえてへんのか! 」
「もう一度言って、お願い! 」
そう言うと光一はもう1度言ってくれた。それをもっと早く言ってくれれば、こんなにずぶ濡れなる事もなかったのにと思いながら。
「あ―わかったでぇ。じゃあ言うで。 俺はえりかの事がす・・・・・・・」
ガア――――――
またも光一の声が、反対側の電車が来て聞こえなくなった。電車のお邪魔虫!
「え―? なんて? 」
そして、電車が過ぎ去った。
「・・・・えりかの事が好きなんだ! 」
「え・・・・好き・・・・・・好きって? 言ったの! 」
嬉しかった。女の子とは言葉で言われるのが一番しびれる。
「あ―そうやでぇ」
と、光一は真剣な眼差しで言っている。だから私は、
「光一! 」
嬉しくて光一に抱きついた。
「私も好きやでぇ! 」
私たちはどしゃ降りの雨と雷の中、それを忘れて2年分、いや5年分の愛をはぐくんだ。雷もなっているが、私の耳には入ってこない。
「よし、えりかもう行くでぇ」
と、光一が私の手を引っ張るが、私は逆に引っ張り返した。
「待ってぇ! 」
私がそう言うから光一は振り返った。また顔はしかめ顔に変わっていた。
「なんやねん! 」
私はアヒル口になって、
「キスしてぇ! うん! 」
と言って、目をつぶって、私よりの背の高い光一の唇の方に、唇を突き出してキスを求めた。
「分かった。車戻って、暖まって・・・」
車に戻って、そんなに待てるかぁ! 今すぐだ。
「今ここで、キスしてぇ! 暖めてぇ! う~ん」
私は光一に抱きついて、唇を突き出した。
「えーここでぇ! 」
私は唇に指を押し当てて、早くしてと急かした。
「分かった。するでぇ」
「うん」
私は目をつぶって光一に抱きつき、口づけをした。
その時、電車が横を通り過ぎた。キスしているのを見られてしまうけど、そんなことはもうどうでもいい。今この時、この瞬間の幸せを感じたい。
「やべぇ! 予約の時間過ぎたやないか! 」
なんで唇を離すんだぁ~。
「え―まだぁ! もうちょっと~ぉ~ 」
もう私の甘えん坊が大炸裂。
「分かった。分かった。続きは後でなぁ! 」
ううううう。名残惜しいけど、これ以上ワガママ言っちゃいけない。
「絶対だよ! 」
そう言って、私たちは車に戻った。私は幸せを感じています。今もこれからも。
誰かのラブストーリーへつづく・・・・
